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針山の天王桜(てんのうざくら)Cherry tree in Gunma

水鏡がつくり出す幻想的な円桜  
風のない日に会いに行きたい 

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DATA of TREE
▽樹種:サクラ(バラ科・落葉高木) 
▽学名:Prunus
▽樹齢:約300年(県指定天然記念物)
▽樹高:約10m/幹周り:約5.2m
▽所在地:群馬県利根郡片品村大字花咲
(2013年5月現在)

【木の特徴】
田んぼの水面に樹冠が映り、まんまるい形に見える。こんなに美しい花の円を見たことはなかった。

長い間、桜の巨樹に心惹かれなかった。「桜を見に行こう!」と自ら意識して、初めて出会ったのがこの「天王桜」だった。美しかった。群馬生まれの友人が「まんまるい桜なんだよ」と教えてくれたが、最初はピンとこなかった。自分の目で見てやっと納得した。桜は小高い丘の上に立ち、手前から見るとわからないけれど、丘を登っていくと向こう側には田園風景が広がっている。その田んぼの水面にピンク色の樹冠が映り、まんまるい形をつくり出していた。上半分は本物の桜、下半分は水面の桜。青い空、青い水面、そこに淡いピンク色の桜の木。ほんの静かな風でも水面は揺れるので、映る桜も揺れて、くっきりとは見えない。ところが一瞬、風がとまった時、水面は一面の鏡となって、完璧な姿で桜を映した。樹冠は完全な円となり、形を崩すことなく桜花のひと枝ひと枝を映し出していた。

この桜をすっかり気に入ったのは、夜もまた一層、美しく輝くからだった。夕暮れになるとライトアップされ、淡いピンク色の花びらが黄金色や濃い紅色をおびて輝き出す。田園のほうから見るとオレンジ色に光る桜がまんまるく映り、なんとも幻想的な姿となる。濃紺色の闇夜、まるで地上に月が降りたようなのだ。桜、夜空、星、田園、そして、水という自然美を集約した夜桜一樹。他では決して見られない光降る桜に酔いしれたい。

★この木を見るポイント⇒風のない時に行くといい。水面がゆれないので、完全な水鏡となり、桜の円も完璧になる。花の見頃は4月下旬~5月初旬

【歴史を伝える】
桜の種類はヤマザクラ。持ち主はこの近くにある蕎麦屋「天五庵」店主の千明長治氏で、西暦1818年(文化15年)に木の根元に石の祠を祀ったことが伝えられている。その時にはすでに百年が経っていたとのことから樹齢三百年を超えるといわれている。

【この木に会いに行こう!】
関越道沼田ICから約35分

横室(よこむろ)の大カヤ Torreya in Gunma 

樹齢1000年、金沢家の人々が守り続けている 
どっしりと根を張ったカヤの大樹 

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DATA of TREE

▽樹種:カヤ(イチイ科・常緑高木) 
▽学名:Torreya nucifera
▽樹齢:約1000年
▽樹高:約24m/幹周り:約8.1m(2000年調査)
▽所在地:前橋市富士見町大字横室1023-1
※国指定天然記念物(1933年4月13日指定)
 
【木の特徴】
カヤと出会ったら、まず嗅覚を鋭くすることだ。少し離れた場所からでも、葉の香りが漂ってくる。さわやかとは言いがたいが、甘いような、ツーンとした清涼感がかすかにあるような、独特の香りがする。カヤは細身のものも多いが、この大カヤはどっしりと根を張って、堂々たる姿だ。旧家、金沢家の所有地に立つ、個人が管理している巨樹である。これほどの大きな木を守り続けるのはどれほど大変なことだろう。現代において、街中の巨樹が元気に成長するのは、その木を守りたいという人間の意志に支えられていることに感銘を受ける。カヤの木のすぐ下に立って、樹冠を見上げよう。推定樹齢は約1000年という長生きの木だが、老木には思えないほど、力強い生命エネルギーに満ちあふれている。 (2019年10月撮影)
★この木を見るポイント⇒カヤの実、根張り。葉の香りを嗅ぐ。

【歴史を伝える】
金沢家の系図によると、祖先が1749(寛永2)年、諏訪神社を奉祀したとき以来、ご神木として尊重してきたものという。1907(明治40)年、諏訪神社が赤城神社に合祀されるにあたり、金沢氏が境内を買い求め、このカヤを管理するようになった。現在、木が立つのはその諏訪神社跡の広場である。

【この木に会いに行こう!】
赤城山のふもと、国道17号田口町の交差点を東に入り、600メートルほど進むと右手に見えてくる。帰りにお土産を買うなら道の駅「ふじみ」がおすすめ。地元情報で知ったのだが、餃子の皮が超うまい。日帰り温泉(1日520円)もあり。

【カヤとは?】
イチイ科・常緑針葉高木。神社やお寺などでよく見かける。かなり巨木になり、高さ約35メートル、直径2.5メートルほどになるものも。花期は4~5月、秋にまんまるい実がなり、食用、薬用になる。木材は建築、船舶、彫刻などに利用され、とくに柾目材は碁盤として最高級品。葉の先を握ると痛い。姿の似たイヌガヤは葉がやわらかく、痛くないので区別できる。

※参考文献:『群馬の巨樹・古木めぐり』(群馬県緑化推進委員会)

崇禅寺のアカマツ pine in Gunma

神様が降臨するための梯子を発見! 
生命の営みが繰り返されることへの感謝の念 

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DATA of TREE
▽樹齢:不明
▽樹高:不明
▽幹周り:不明
▽所在地:群馬県桐生市市川内町2-651 崇禅寺内
▽会いに行くには:JR両毛線「桐生」駅から車で約10分

松迎え、門松、松明......。神の依代として、日本の伝統行事に欠かせない、わ が国の吉祥樹の代表といえるマツ。庭園などではきれいに剪定され、下枝は伐 りとられていることが多いのでわかりにくいが、海岸などで自然のままの姿を しているマツの枝が下向きに伸びていることがある。その枝は天から神様が降 りてくるときの梯子(はしご)だと古来、伝えられてきたのをご存知だろうか。 私自身、書物では知っていたが、本物と会えるとは思ってもみなかった。

群馬県桐生市にある崇禅寺の本堂前に立つ、堂々たる神様の梯子である。青々 と繁るアカマツの幹から一本の枝が伸びている。自然と伸び始めた枝をお寺の 方が丁寧に整え、ここまで育てられたのだろう。枝が太く、地面までなだらか な傾斜で導かれ、神様がとんとんと歩いて渡るにも安心のように思える。
崇禅寺は鎌倉時代、元久2年(1205)から約800年の歴史がある寺だ。初代執権で ある北条時政が追放され、子の北条義時が政権を握った頃からの始まりという。 境内にはアカマツの老樹が立ち並び、「萬松山」と呼ばれるほどマツが多い。 このマツの向かいにも、背の高いアカマツが聳えていたが写真に納まりきらず、 お見せできないのが残念だ。真夏に訪れたので、見上げても太陽の陽射しが眩 しすぎて、上の緑までよく見ることができなかった。巨樹は赤い龍のようだっ た。龍が空を昇るかのようにやや傾斜して伸びていこうとしている。そのダイ ナミックな立ち姿そのものが"神の依代"としての存在感をアピールしている ようだった。崇禅寺ホームページを見ると、第二十一世ご住職、岩田真哉氏は 「松樹千年翠」という言葉とともに、古い葉が新しい葉に移り変わりながらも、 生命の息吹は常に変わることなく、千年の緑を保つマツについて伝えていらっ しゃる。
これこそが日本古来の常緑樹、マツへの信仰である。寒い冬の間も緑を湛え、 春になれば新しい芽を出し、生命の営みが繰り返されることへの感謝の念。マ ツは毎日を無事に暮らせるという平和の象徴であろう。
じつはここを訪れたのはマツが目的ではなかった。樹齢600年、日本一のイト ヒバに会いに来たのだった。アカマツの後ろに見えるのがイトヒバだ。このお 寺は木が大きく育つ磁場のようなものがあるのかもしれない。目的とは違う木 と出会い、離れがたくなるのはよくあることだ。このマツもそんな1本である。 どこにも書かれていない巨樹、ご神木との出会いを大切に伝えていきたい。
それにしても不思議な姿をしていた。赤い幹、龍のウロコのような樹皮、のた うつように曲がりくねった枝。訪れたのは8月初めのこと。生命力に満ち満ち たアカマツの熱と照りつける太陽の陽射し。広い境内を歩けば、真夏だという のにオレンジ色に染まった紅葉も見つけた。私は境内を流れる、熱い赤の生命 エネルギーにすっかりのぼせてお寺をあとにしたのだった。

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天狗の里の馬かくれ杉 Cedar in Gunma

馬が隠れるほどの洞穴がある
その大きな空洞こそが森の神域

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◎樹種/スギ(スギ科)
◎樹齢/1000年 
◎樹高/29メートル
◎幹周り/7.71メートル
◎所在地/群馬県沼田市上発知町445
(2014年5月現在)

上発知(かみほっち)の枝垂れ桜 Cherry tree in Gunma

孤高の桜に会いに行こう  
小高い丘の上、お地蔵さまが見守ります 

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DATA of TREE
▽樹種:サクラ(バラ科・落葉高木)
▽学名:Prunus 
▽樹齢:不明
▽樹高:約17m/幹周り:約3.75m
▽所在地:群馬県沼田市上発知町646
(2014年5月撮影)

【木の特徴】
心惹かれるのは孤高の桜。ほとんど人が来ない、忘れ去られたような桜の大樹に会いに行くと、ふと精霊が現れることがある......。この桜はまさに、孤高という言葉がふさわしい。

桜は車がないと少し行きづらい場所にある。沼田インターから迦葉山のほうへと広い道路を15分ほど走った頃、左手に柿の木畑や田んぼが見えてくる。なんとも静かな通りで、車にも人にもすれ違わなかった。左手に折れる細い坂道を記憶を辿りながら探す。この日はすんなり見つかった。民家の脇を通って道なりに進むと、小高い丘の上に枝垂れ桜が立っていた。車を止めて、桜のそばまで田園のあぜ道を歩く。子供の頃に田んぼで遊んだ記憶が蘇るような素朴な景色の中、地面につきそうなほど枝垂れた枝々が迎えてくれる。訪れた日は新芽が出始めていて、最も美しい満開には少し遅かった。それでも桜は風に揺れるたびに妖艶な魅力を放ってくる。

桜の木の下に座り、目を閉じてみた。さらさら、さらさら......。絶えず枝が触れ合う音が聞こえた。しばらくそうした後、丘から降りて、桜を眺めた。見る角度を変えると普通は姿が変わるものだが、この桜はほとんど印象が変わらなかった。木の下にはお地蔵さまがいらっしゃる。赤い着物を着て、ずっとこの土地で桜を見守っていらした仏さま方だろう。孤高の桜。ただ一樹、凛と立っている。孤立した感じがしないのはお地蔵さまと一緒だからか。家族のように寄り添う、桜の木とお地蔵さまだった。

★この木を見るポイント⇒ 田園風景の中に唯1本立っている。

【歴史を伝える】
今でこそ、花見は桜を見ながら飲んだり食べたりする宴会であるが、古代は花見とは桜の木に降り立った穀物神に神楽(舞いや音楽)を奉納したことが始まりだとされている。サクラの「クラ」は磐座とともに、神楽(カグラ)のクラ。そして、「サ」は桜のほかにも、稲を植える月は「サツキ(五月)」、田に植える苗は「サナエ」、稲を植える女性は「サオトメ」というように、「サ」とは穀物神を表す神聖な言葉であった。稲がよく実り、豊かな暮らしができるのは、桜の木に宿る「サ(穀物神)」のおかげ。春、穀物神が人里に降りてくださったことを人々は祝福した。桜に宿った神様を喜ばせるために、にぎやかにお囃子(はやし)を奏で、舞い踊ることで、花の霊力、稲の力を高め、自然のエネルギーが一年を通して巡るようにと祈る儀式が花見だった。花見は人間が一方的に桜の花を見て楽しむものではなかったのだ。とはいえ、古代の人々も桜の花を見上げて、ほろ酔い気分で、豊作の吉凶を口々に言い合ったかもしれない。風流な貴族たちは歌を詠み、若い男女は愛を交わし、楽しい時間を過ごしただろう。桜も喜び、人も嬉しい、そんな目には見えない、耳には聴こえないやりとりが古代にはあったかもしれない。枝垂れ桜をぐるりと囲む田んぼを眺めながら、そんなことを考えた。

【この木に会いに行こう!】
関越沼田ICより迦葉山弥勒寺方面へ車で約15分。
 



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