蛇喰jabamiの千本カツラ Katsura in Akita
不思議な葉音が聴こえてくる。
水の神の気配を感じたい
DATA of TREE
▽樹齢:約800年(秋田県指定天然記念物)
▽樹高:30メートル
▽幹周り:17.6メートル
▽所在地:秋田県由利本庄市鳥海町栗沢
▽会いに行くには:由利高原鉄道矢島駅より車で約30分。
新緑の萌える匂い、苔むした森の匂い。大地から上へ上へと伸びる枝がからま るカツラのそばで、水が流れる音がする。チロチロ、サワサワ。木の根元に小 川があるが水量は少なく、そこからは何も聴こえない。まさか樹液が流れる音 が聴こえているわけではないだろう。大きなカツラの木の裏側へ回ってみたと きのことだった。カツラ特有のヒコバエのひと枝が腕を伸ばすように手を広げ、生き生きとした葉をいっぱいに私の方へと迫ってきた。カツラの葉はハート形をしていて一枚 一枚にまるで心があるかのように見える。
「こんにちは」「わあ、誰か来た! 」「あなた、だあれ?」木に宿る精霊たちが会話しているように葉と葉とがこ すれ合い、チョロチョロと不思議な音色を奏でていたのだ。カツラの葉に囲ま れて、私はしばらくの間、小さなメロディを聴いていた。
カツラの名前は「蛇喰(じゃばみ)の千本カツラ」。樹齢約800年。クローバーとタンポポが群生する小高い山の上に立っている。登 り切ったところで振り返ると、真正面に鳥海山が見える素晴らしい場所だ。こ こから見た鳥海山は富士山の形に見えると、付近でも絶景の展望台といわれて いる。
無数のヒ コバエが絡まり合って太い幹を形づくるカツラは「千本カツラ」と呼ばれ日本 全国にあるが、中でも最大クラスとされているのがこのカツラだ。蛇を連想さ せることからおどろおどろしい異名がついたそうだが、地元では大蛇が株元に 住む山の神として崇拝されてきた巨樹である。立て看板によると、約350年前 に長崎から移り住んできた黒木一族が千本カツラ一帯を所有したとき以来、そ う呼ばれるようになった。言い伝えに因み、地元では毎年1月15日には幹に注 連縄をかけ、お神酒をあげて参拝するのが風習となっているという。本物の蛇 とは会えなかったが、蛇の抜け殻らしいものが幹についているのを見た。カツ ラを守護するという大蛇神が脱ぎ捨てていったのかもしれない。(2014年6月撮影)
鳥海山が正面に見える。
法内の八本杉 cedar in Akita
6本のスギが寄り添うように仲良く育つ山の神
昔は8本あったので、八本杉と名づけられた
DATA of TREE ▽樹齢:約500年以上(秋田県指定天然記念物)
▽樹高:約11.66メートル
▽幹周り:約48メートル
▽所在地:秋田県由利本庄市東有里法内字臼ケ沢国有林
▽会いに行くには:JR羽越本線「羽後本荘」駅より車で約50分
何本ものスギが一緒に生長している珍しい巨樹。秋田 杉に囲まれた森の中、急な山道を登っていくと突然、堂々たる姿が目に飛び込 んでくる。現在、6本のスギが寄り添うように生長し続けている合体木である。 昔は8本あったので、八本杉と名づけられた。スギは別々の木が癒着して一本 の巨樹となりやすい樹種だが、これほど数多くの幹が大きな一樹となって伸び る光景は奇跡的ではないだろうか。このスギの場合、新芽が出てきた時に癒着 して、地上約3メートルの高さまで一緒に生長し、主幹を形成したと考えられ ている。そこから上は1本1本の幹が独立して環状に伸びていき、秋田県内最大 級のスギへと生長した。根元にある石の祠は江戸時代からあるといわれている から、長く地元の人に大切にされてきたのだろう。とにかく大きい、壮大な山 の神である!
日本古来の「神杉」巡礼はいかがだったろうか。異形の巨樹が好きな私は、こ の他にもご紹介したいスギが数多くある。洞の形から名づけられた「箱根神社 の安産杉(神奈川県)」、玉の形をした樹冠が珍しい「山五十川の玉杉(山形 県)」、被災地の守護神「大船渡の三陸大王杉(岩手県)」等々、スギ図鑑が 作れるほど出会っているので、次の機会まで楽しみにしていてほしい。
鳥海山北麓のあがりこ大王 Beech in Akita
白い肌をした森の巨人
ブナ林でひときわ大きく聳える
◎樹種/ブナ(ブナ科)
◎樹齢/300年
◎樹高/25メートル
◎幹周り/7.62メートル
◎所在地/秋田県にかほ市象潟町字中島台
森の巨人たち100選(2014年6月現在)
鳥海山麓の燭台ブナ Beech in Akita
森の中のキャンドル立て
ニンフ(妖精)の腰掛けとも呼ばれます
◎樹種/ブナ(ブナ科)
◎樹齢/不明
◎樹高/不明
◎幹周り/不明
◎所在地/秋田県にかほ市象潟町字中島台
(2014年6月現在)
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