大滝のカツラ katsura in Yamagata
樹齢約400年、水の気が滴り落ちてくる
鬱蒼の茂る森に立つ神宿るカツラ
DATA of TREE
▽樹齢:約400年
▽樹高:31メートル
▽幹周り:13.2メートル
▽所在地:山形県東根市関山字滝沢山3172
▽会いに行くには:国道48号線、大滝ドライブインから下流にある橋を渡ると まもなく。
巨樹が立つ森に入ると、不思議な音を耳にすることがある。そのとき聴こえて きたのはチョロチョロ、サワサワサワ......。水が流れる音だろうか。小川の せせらぎでもなく雨の雫の音でもなかった、その音色の正体は?
水の神様が宿るカツラの木。
今まで出会ったカツラの中で、いちばんカツラらしい。それでいて、木という生命に姿をかえて立つ、神のような、精霊のような、清らかな水の気に満ち満ちた巨樹であった。「大滝のカツラ」。樹齢は約400年。
鬱蒼と茂る森を背景に、水の気、緑の気が充満した巨樹はどっしりと、神秘的 な姿を見せて立っていた。無数のヒコバエが集まり、しっかりと癒着している ため、一本の太い幹のように見える。"大滝"というのは近くにある滝の名前だ が、滝のように水の気が滴っているようにも見える巨樹だ。この写真、緑色の 水膜がかかっているように見えないだろうか。木の前ではそれほど靄(もや)がかかっているようには見えなかったのだが、写真に撮ると水の気でベールをかぶったようになった。木のちょうど裏手に坂道があり、カツラをぐるりと一周眺めることができる。どこから見ても、水の気がこの巨 樹の周辺一帯を覆っていた。梅雨の晴れ間の暑い日だったが、木を前にしていた間、絶えまなく、清々しいひんやりとした風が吹いていた。水の神様はたしかにここにいた。2014年6月撮影。
蛇喰jabamiの千本カツラ Katsura in Akita
不思議な葉音が聴こえてくる。
水の神の気配を感じたい
DATA of TREE
▽樹齢:約800年(秋田県指定天然記念物)
▽樹高:30メートル
▽幹周り:17.6メートル
▽所在地:秋田県由利本庄市鳥海町栗沢
▽会いに行くには:由利高原鉄道矢島駅より車で約30分。
新緑の萌える匂い、苔むした森の匂い。大地から上へ上へと伸びる枝がからま るカツラのそばで、水が流れる音がする。チロチロ、サワサワ。木の根元に小 川があるが水量は少なく、そこからは何も聴こえない。まさか樹液が流れる音 が聴こえているわけではないだろう。大きなカツラの木の裏側へ回ってみたと きのことだった。カツラ特有のヒコバエのひと枝が腕を伸ばすように手を広げ、生き生きとした葉をいっぱいに私の方へと迫ってきた。カツラの葉はハート形をしていて一枚 一枚にまるで心があるかのように見える。
「こんにちは」「わあ、誰か来た! 」「あなた、だあれ?」木に宿る精霊たちが会話しているように葉と葉とがこ すれ合い、チョロチョロと不思議な音色を奏でていたのだ。カツラの葉に囲ま れて、私はしばらくの間、小さなメロディを聴いていた。
カツラの名前は「蛇喰(じゃばみ)の千本カツラ」。樹齢約800年。クローバーとタンポポが群生する小高い山の上に立っている。登 り切ったところで振り返ると、真正面に鳥海山が見える素晴らしい場所だ。こ こから見た鳥海山は富士山の形に見えると、付近でも絶景の展望台といわれて いる。
無数のヒ コバエが絡まり合って太い幹を形づくるカツラは「千本カツラ」と呼ばれ日本 全国にあるが、中でも最大クラスとされているのがこのカツラだ。蛇を連想さ せることからおどろおどろしい異名がついたそうだが、地元では大蛇が株元に 住む山の神として崇拝されてきた巨樹である。立て看板によると、約350年前 に長崎から移り住んできた黒木一族が千本カツラ一帯を所有したとき以来、そ う呼ばれるようになった。言い伝えに因み、地元では毎年1月15日には幹に注 連縄をかけ、お神酒をあげて参拝するのが風習となっているという。本物の蛇 とは会えなかったが、蛇の抜け殻らしいものが幹についているのを見た。カツ ラを守護するという大蛇神が脱ぎ捨てていったのかもしれない。(2014年6月撮影)
鳥海山が正面に見える。
貴船神社のカツラ Katsura in Kyoto
ハート形の葉、上昇するひこばえ
気の力が蘇る浄化の桂
まさしく「水の神」と会いたいなら、京都の貴船神社で3本のカツラを訪れる
のがいい。それぞれに異なるご利益をもつ美しいご神木だ。ここのカツラに会
いたくなるのは心身ともに澱がたまっているようなとき。それらを洗い流し、
まっさらな自分にしてくれるご神木だと信頼している。
貴船口から川のせせらぎに耳を傾けながら貴船川沿いを歩いて行くと、朱塗り
の灯籠が見えてくる。その美しい石段を登っていくと、参門を入った左手にカ
ツラの木が立っている。貴船神社でまず初めに会うカツラである。本殿前にあ
るため、参拝する人々がみな見上げていく。境内の泉には「水占みくじ」があ
り、人々が一喜一憂するのをカツラは楽しそうに眺めている。
貴船神社のご祭神は高霊龍神(たかおかみのかみ)。水を司る神である。解説
によると、体内の気が滞ることを「気枯れ」といい、参拝すると神様の気に触
れて、心身の気の力が再生し、生命力さらには運気が高まるとされる。「キフ
ネ」という名前は昔は「気生根」「木生根」と書かれ、万物の気が生じる根源
の地、木が生い茂る水源の地という意味を含んでいる。雨乞い、雨止み、水に
関わる商売繁盛、航海の安全、子宝・安産などを祈願する水の神社にカツラは
立っている。
縁結びの相生のカツラ
私が最も心惹かれるカツラは中宮にある結社(ゆいのやしろ)にある「相生の
カツラ」だ。細いヒコバエが次々と出て、上へ上へと空高く聳えている。すぐ
そばには同じ根から2本になった樹齢一千年の「相生のスギ」もあり、夫婦と
もに長生きという、どちらも縁結びと夫婦和合のご神木である。もう少し進む
と「連理のスギ」といって、スギとカエデがくっついた男女のご縁結びのご神
木。この一帯は"縁結び"の気が流れているようだ。
結社のご祭神は磐長姫命(いわながひめのみこと)。恋を祈る神様として信仰
され、平安時代には和泉式部が恋心を歌に託して祈願した話が残っている。結
び文を神前に結びつけて祈願すると、男女のご縁だけでなく、人とのよいご縁、
仕事や進学などのあらゆるご縁を結んでくださる女神様だ。水をたっぷりと含
む「相生のカツラ」は過去の悲しみを洗い流し、苦しいご縁は断ち切って、新
たな良縁を結ぶ力をくださるように感じる。このカツラと出会って約10年、私
の周りのご縁も大きく変わってきたように感じるから、ご利益があったのかも
しれない。
奥宮の野生味あふれるカツラ
3本目のカツラは奥宮に向かう森の中にある。少々わかりづらいが看板を目印
に、凛と立つ姿をぜひ見てほしい。奥宮本殿の下には龍穴があり、大地のエネ
ルギーが吹き上がる場だと考えられている。そばには貴船神社の名前の由来の
一つ、神武天皇の母である玉依姫(たまよりひめ)が乗ってきた「黄船」では
ないかといわれる御船形石があり、境内そのものがエネルギー・スポットとな
っている。そのためだろうか、樹皮はゴツゴツとして、ヒコバエはほとんどな
く、太い幹がどっしりと立つカツラだ。野生味あふれ、他の2本のように繊細
で清らかな姿とはまるで違う印象である。
本殿前1本目のカツラは浄化の力、結社の2本目は縁結び、奥宮の3本目は気を
高める力、とそれぞれにご利益もイメージも異なるカツラ。私がこうした木の
ご利益を信じられるのは、木が"いのち"を宿しているからだ。長い歳月を生き
てきた巨樹の下に立つと、自分の命と木の命とが共鳴し合う瞬間がある。その
力強い生命エネルギーの交流は何ものにも代えがたい自らの力となり、日常に
"願いが叶う"といった形で現れるように感じている。触ればご利益がある、そ
んな単純なものではない。
3本のカツラを訪れるときは鞍馬寺から貴船神社へと歩いていくことをおすす
めしたい。この辺りはカツラのご神木だけでなく、スギの巨樹も聳え立ち、木
の根がはびこる山道も力強い気に溢れている。聖なる存在としての"何か"を
様々に感じられる場所として、私はとても気に入っている。