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上発知(かみほっち)の枝垂れ桜 Cherry tree in Gunma

孤高の桜に会いに行こう  
小高い丘の上、お地蔵さまが見守ります 

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DATA of TREE
▽樹種:サクラ(バラ科・落葉高木)
▽学名:Prunus 
▽樹齢:不明
▽樹高:約17m/幹周り:約3.75m
▽所在地:群馬県沼田市上発知町646
(2014年5月撮影)

【木の特徴】
心惹かれるのは孤高の桜。ほとんど人が来ない、忘れ去られたような桜の大樹に会いに行くと、ふと精霊が現れることがある......。この桜はまさに、孤高という言葉がふさわしい。

桜は車がないと少し行きづらい場所にある。沼田インターから迦葉山のほうへと広い道路を15分ほど走った頃、左手に柿の木畑や田んぼが見えてくる。なんとも静かな通りで、車にも人にもすれ違わなかった。左手に折れる細い坂道を記憶を辿りながら探す。この日はすんなり見つかった。民家の脇を通って道なりに進むと、小高い丘の上に枝垂れ桜が立っていた。車を止めて、桜のそばまで田園のあぜ道を歩く。子供の頃に田んぼで遊んだ記憶が蘇るような素朴な景色の中、地面につきそうなほど枝垂れた枝々が迎えてくれる。訪れた日は新芽が出始めていて、最も美しい満開には少し遅かった。それでも桜は風に揺れるたびに妖艶な魅力を放ってくる。

桜の木の下に座り、目を閉じてみた。さらさら、さらさら......。絶えず枝が触れ合う音が聞こえた。しばらくそうした後、丘から降りて、桜を眺めた。見る角度を変えると普通は姿が変わるものだが、この桜はほとんど印象が変わらなかった。木の下にはお地蔵さまがいらっしゃる。赤い着物を着て、ずっとこの土地で桜を見守っていらした仏さま方だろう。孤高の桜。ただ一樹、凛と立っている。孤立した感じがしないのはお地蔵さまと一緒だからか。家族のように寄り添う、桜の木とお地蔵さまだった。

★この木を見るポイント⇒ 田園風景の中に唯1本立っている。

【歴史を伝える】
今でこそ、花見は桜を見ながら飲んだり食べたりする宴会であるが、古代は花見とは桜の木に降り立った穀物神に神楽(舞いや音楽)を奉納したことが始まりだとされている。サクラの「クラ」は磐座とともに、神楽(カグラ)のクラ。そして、「サ」は桜のほかにも、稲を植える月は「サツキ(五月)」、田に植える苗は「サナエ」、稲を植える女性は「サオトメ」というように、「サ」とは穀物神を表す神聖な言葉であった。稲がよく実り、豊かな暮らしができるのは、桜の木に宿る「サ(穀物神)」のおかげ。春、穀物神が人里に降りてくださったことを人々は祝福した。桜に宿った神様を喜ばせるために、にぎやかにお囃子(はやし)を奏で、舞い踊ることで、花の霊力、稲の力を高め、自然のエネルギーが一年を通して巡るようにと祈る儀式が花見だった。花見は人間が一方的に桜の花を見て楽しむものではなかったのだ。とはいえ、古代の人々も桜の花を見上げて、ほろ酔い気分で、豊作の吉凶を口々に言い合ったかもしれない。風流な貴族たちは歌を詠み、若い男女は愛を交わし、楽しい時間を過ごしただろう。桜も喜び、人も嬉しい、そんな目には見えない、耳には聴こえないやりとりが古代にはあったかもしれない。枝垂れ桜をぐるりと囲む田んぼを眺めながら、そんなことを考えた。

【この木に会いに行こう!】
関越沼田ICより迦葉山弥勒寺方面へ車で約15分。
 



石割桜(いしわりざくら)Cherry tree in Gunma

大きな石を割って咲いたカスミザクラ  
石と桜とがともに生きる 

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DATA of TREE
▽樹種:カスミザクラ(バラ科・落葉高木) 
▽学名:Prunus 
▽樹齢:不明(沼田市指定天然記念物)
▽樹高:約5.2m/幹周り:約1.5m
▽所在地:群馬県沼田市白沢町高平


春の終わりの桜の木の下、花びらがひらひらと舞い散るなかで佇んでいるのが好きです。心惹かれるのは孤高の桜。ほとんど人が来ない、忘れ去られたような桜の大樹の下に立つと、ふと精霊が現れることがある......。さくら、さくら、さくら。毎年5月、会いに行くのは大きな石の中から生まれた桜です。

【木の特徴】
おにぎり型の石をよく見てください。その石から生えたように幹が癒着して伸び、桜の花が咲いています。大きな石を割って咲いたことから「石割桜(いしわり・ざくら)」という名前で呼ばれています。桜の種類はカスミサクラ。遠くから眺めたときに霞(かすみ)のように見えることから、霞桜といいます。時々、アスファルトを割って生えるタンポポやスミレを見たことがあるけれど、こんな大きな岩を割って、太い幹が伸びる桜は他に見たことありません。大岩を割って芽吹くとは!驚き!なんという生命力の強さ!どうして、この石から桜が生えたのかは不明です。「石割桜」と名づけられた桜は岩手県盛岡市にもあり、こちらはエドヒガンザクラですが、落雷を受けた割れ目に種が入りこみ、生長したと伝えられています。この石割桜も似たような状況だったのかもしれません。

心に響く木と出会うと、根元に座ったり、幹に寄りかかったり、樹皮に触れたくなって、木のそばを陣取るので、撮影目的で訪れたカメラマンににらまれることがあります。この日もつい両手を広げて幹に張りついていたのですが、カメラを手にした人たちは私が桜とたわむれるのを静かに待っていてくれました。木から離れ、「お待たせしました」とお礼を言うと、「いいえ、いいえ」と手を振って、「何の問題もないよ。この桜、いいよなあ」「抱きつきたくなるよ、わかる、わかる」と言ってくださいました。この日この時間、ほんの一瞬すれ違っただけなのに、桜の木の下で出会った人たちとの会話を思い出すと、今でも心がほわっとあたたかくなります。

★この木を見るポイント⇒ 石が割れ、中から幹が伸びている。裏にまわると、割れた石の間に入れます(写真左下)。ただし、すぐ崖なので足をすべらせないように注意してください。花の見頃は4月下旬~5月第1週目くらい。

【歴史を伝える】
桜の木のそばには歌が添えられています。

「見る人の ためにはあらで おくやまにおのがまことを 咲くさくらかな」読人不知

この辺りを旅した人が地元の誰かに言い残していった歌かもしれませんね。「桜は、見る人のために咲くのではなく、この奥山で自分のために咲いている、桜よ」といった意味でしょうか。現代、他人の評価を気にして、自分の本心を見失いがちな私たちに、「自分の心を大切にするんだよ、自分を否定するなよ。自分のために精一杯、美しい花を咲かせよう」と励ましてくれているようです。孤高の桜は今年の春も、私を待っていてくれると思います。

【石割桜の教え】
強い意志は、岩をも壊す。芽吹け、伸びろ、花ひらけ。

【この木に会いに行こう!】
関越沼田ICよりGCスカイリゾート方面へ進み、車で約15分。

(2014年5月撮影)

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