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こころの木、メイン画像

桜の木の魂が、新しく生まれた命を見守ってくれています

ひよりさんが「こころの木」のエピソードを贈ってくださいました。
心の中に立ち続けている木、それは桜です。


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マンションのダイニングの窓から、大きな桜の木が見えていました。隣の社宅の空き地にひっそりと佇んでいる一本の大木でした。
春になると、見事なピンク色の花を枝が見えないほどゴージャスに咲かせていました。満開の桜の時期は、「私を祝福する為に咲いてくれている」と、勘違いするくらい親近感を持っていました。春の日以外も、目覚めると、桜の木を見て、どっしりと大地に生きている姿に力強さとやる気を覚えました。午後は、光の輝く緑の葉っぱに癒されて、夜は、静かにざわめく木の呼吸に落ち着いて安心しました。
ところが、数年過ぎたある日、桜の木がある社宅の土地は売却されることになったのです。桜だけは残してほしいと願っていましたが、「あと半年で伐られる」と耳にして、ショックを受けました。それからは、写真を撮ったり、絵に描いたりして、心に残そうと桜との時間を大切にしていました。でも、大事にしてきたこの桜の木を伐採する作業を平穏な気持ちで見ていることは到底できないと、想像しただけで悲しくなっていました。
伐採が決まった年、私は妊娠していて、ほとんどの時間、自宅にいたのです。伐採の日が近づくにつれて、私のお腹もどんどん膨らんできました。秋も深まり、私の出産日がくるのが早いか、伐採される日が早いか、と押し迫ってきていました。
キラキラとした朝日が桜の木を照らしていた朝、私は出産のために入院しました。今日でこの桜ともお別れかも......と直感で感じましたが、不思議なことに、悲しい感情は少しもなく、最高の祝福の感情だけが、心を埋めつくしていました。
名残り惜しい気持ちはすっかり消えていて、桜の木に「一緒にいてくれてありがとう」と自然に声をかけていました。
3週間後、私は赤ちゃんとともに自宅に帰ってきました。
窓の外には、あの愛していた桜の木は、もうありませんでした。茶色い土埃の立つ更地になっていました。
ちょうど桜が伐られる日、私は出産していたかもしれない......。桜の木の魂が、新しく生まれた命を見守ってくれる、と想像するとなんだか嬉しくなりました。
それから間もなくして、新しい住まいに引っ越しました。ダイニングの窓からは素敵な桜の木が見えます。
今度の家では、数本の桜の木がいっぺんに見えて、楽しんでいます。
「桜の木は、きれいだね、お母さんの大好きな木だよ」と言って、子どもと一緒に眺めています。


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