石割桜(いしわりざくら)Cherry tree in Gunma
大きな石を割って咲いたカスミザクラ
石と桜とがともに生きる
DATA of TREE
▽樹種:カスミザクラ(バラ科・落葉高木)
▽学名:Prunus
▽樹齢:不明(沼田市指定天然記念物)
▽樹高:約5.2m/幹周り:約1.5m
▽所在地:群馬県沼田市白沢町高平
春の終わりの桜の木の下、花びらがひらひらと舞い散るなかで佇んでいるのが好きです。心惹かれるのは孤高の桜。ほとんど人が来ない、忘れ去られたような桜の大樹の下に立つと、ふと精霊が現れることがある......。さくら、さくら、さくら。毎年5月、会いに行くのは大きな石の中から生まれた桜です。
【木の特徴】
おにぎり型の石をよく見てください。その石から生えたように幹が癒着して伸び、桜の花が咲いています。大きな石を割って咲いたことから「石割桜(いしわり・ざくら)」という名前で呼ばれています。桜の種類はカスミサクラ。遠くから眺めたときに霞(かすみ)のように見えることから、霞桜といいます。時々、アスファルトを割って生えるタンポポやスミレを見たことがあるけれど、こんな大きな岩を割って、太い幹が伸びる桜は他に見たことありません。大岩を割って芽吹くとは!驚き!なんという生命力の強さ!どうして、この石から桜が生えたのかは不明です。「石割桜」と名づけられた桜は岩手県盛岡市にもあり、こちらはエドヒガンザクラですが、落雷を受けた割れ目に種が入りこみ、生長したと伝えられています。この石割桜も似たような状況だったのかもしれません。
心に響く木と出会うと、根元に座ったり、幹に寄りかかったり、樹皮に触れたくなって、木のそばを陣取るので、撮影目的で訪れたカメラマンににらまれることがあります。この日もつい両手を広げて幹に張りついていたのですが、カメラを手にした人たちは私が桜とたわむれるのを静かに待っていてくれました。木から離れ、「お待たせしました」とお礼を言うと、「いいえ、いいえ」と手を振って、「何の問題もないよ。この桜、いいよなあ」「抱きつきたくなるよ、わかる、わかる」と言ってくださいました。この日この時間、ほんの一瞬すれ違っただけなのに、桜の木の下で出会った人たちとの会話を思い出すと、今でも心がほわっとあたたかくなります。
★この木を見るポイント⇒ 石が割れ、中から幹が伸びている。裏にまわると、割れた石の間に入れます(写真左下)。ただし、すぐ崖なので足をすべらせないように注意してください。花の見頃は4月下旬~5月第1週目くらい。
【歴史を伝える】
桜の木のそばには歌が添えられています。
「見る人の ためにはあらで おくやまにおのがまことを 咲くさくらかな」読人不知
この辺りを旅した人が地元の誰かに言い残していった歌かもしれませんね。「桜は、見る人のために咲くのではなく、この奥山で自分のために咲いている、桜よ」といった意味でしょうか。現代、他人の評価を気にして、自分の本心を見失いがちな私たちに、「自分の心を大切にするんだよ、自分を否定するなよ。自分のために精一杯、美しい花を咲かせよう」と励ましてくれているようです。孤高の桜は今年の春も、私を待っていてくれると思います。
【石割桜の教え】
強い意志は、岩をも壊す。芽吹け、伸びろ、花ひらけ。
【この木に会いに行こう!】
関越沼田ICよりGCスカイリゾート方面へ進み、車で約15分。
(2014年5月撮影)
上野総社神社のケヤキ Zelkova in Gunma
時に、木は奇跡を見せてくれます
光降り注ぐケヤキのように
大きな木のトンネル、といった姿に惹かれて偶然入った神社で出会いました。雷が落ちて幹の中心が焼け、樹皮だけで立っていて、まるで鳥居のような形をしています。一時はもう再生は難しいと心配されましたが、春になれば再び芽吹き、見事に復活して堂々たる命の気を放っています。深い洞穴を覗きこむと何処か、内に秘めていた未来へと誘われそうな森厳さを感じます。忘れがたい木とはこうして、強引に呼び寄せられたように出会うことのほうがはるかに多いように思います。
境内の中心には、すらりと背の高いケヤキのご神木が立っていました。周りをぐるりと囲むように十二支の絵馬が掛けられていて、幸せを願う人々の思いがこのケヤキを支えているように思えます。しばらく眺めていると、太陽の色が少しずつ変わり始め、ケヤキを美しい光が包んでいきました。枝々の間からいっせいに降り注ぐ光の束は、天上から神が降り立ち、円を描きながら舞っているかのようです。一緒に訪れた友人たちとともに、その神秘的な情景をただただ見つめていました。木は時に、こんなすばらしい贈り物をくれるのですね。
◎樹種/ケヤキ(ニレ科)
◎樹齢/約300年以上
◎樹高/約26m
◎幹周り/約6.2m
◎所在地/群馬県前橋市元総社町1-31-45 上野総社神社
(2011年8月)
伊賀野のモミ Fir in Gunma
今にも歩き出しそう!?
地元の人から愛され続けるモミの木
◎樹種/モミ(マツ科)
◎樹齢/約400年
◎樹高/約35メートル
◎幹周り/約6.7メートル
◎所在地群馬県中之条町大字上沢渡3315
(2012年7月現在)
世立ての枝垂れ栗 Chestnut in Gunma
神さまが泊まる木、休む木
枝葉がしだれ、風にゆらゆら揺れるクリ
◎樹種/クリ(ブナ科)
◎樹齢/約250年
◎樹高/不明
◎幹周り/不明
◎所在地/群馬県六合村大字入山字世立
(2012年7月現在)