小野の枝垂れ栗　Chestnut　in Nagano

木の妖怪が襲いかかるよう!?
枝垂れるクリの異世界

木の妖怪？　ついさっきまで歩いていたのに、人間がやってくるのを見て、はたと立ちどまったような姿をしています。小高い山一面に千本以上が並ぶシダレグリ。魔女の鉤爪のように曲がった枝先、のたうちまわるような幹、幹、幹。
その中で、ひときわ強く、気を放っているクリの木がありました。異形の姿をしたクリの大樹です。樹皮には乳房や腕や背中に似た形が見えます。男女が求め合い、溶け合ってしまったような......。
この木は本当に植物だろうか？　この土地に棲む妖怪か妖精か天狗か？　何かが形を変えて、一本のクリとなったのではないか、そんな気がしました。管理人さんにこの木についてたずねると、「ああ、あの木はもう死んでいるんだよ」とひと言。春になっても一本だけ裸木のまま、新芽が出てくることはないという。
この力強い木が？　これほど生命力を放っているというのに？　この木が死んでいるとはにわかには信じがたい。人間の目に死んだように映るからといって、本当に死んでいるとは限らない。生々しいほどの両性具有の妖艶さを秘めたクリの魂はまだ生きていると私には感じられます。
あなたの感性で確かめてみてください。生きる情熱に満ち満ちたクリの異世界を！

◎樹種／クリ（ブナ科）
◎樹齢／約500年
◎樹高／約10ｍ
◎幹周り／約５ｍ
◎所在地／長野県上伊奈郡辰野町小野楡沢　しだれ栗森林公園
（2006年4月現在）