新芽を食べる4頭のシカー宇宙樹にすむどうぶつたち
むかしむかし、ある星の上に、大きな木が1本、立っていました。その木がいつから立っているのか、だれも知りません。あんまり大きい木なので、だれも木のてっぺんを見たことがありません。あんまり大きい木なので、本当に木が立っているのかどうかも、じつはわからないのです。
その木にはいろいろな動物たちがすんでいます。リスのラタトスクのことは前にお話ししましたね。今日はシカに会いに行きましょう。
大きな木にはシカが4頭、住んでいます。シカの名前はちょっと変わっています。4頭の中で、いちばんりりしい顔をした、シカの名前は「ダーイン」です。ダーインという言葉は「死」という意味なんです。こわいですね。4頭の中で、いちばんなさけない顔をした、シカの名前は「ドヴァリン」。この名前は「躊躇(ちゅうちょ)する者」という意味なんです。いつも何かなげいています。あとの2頭は名前の意味はわかっていません。4頭の中でいちばんニヤけた顔をした「ドゥネイル」、4頭の中でいちばん甘えん坊の顔をした「ドルラスロール」。4頭はとてもなかよしでしたが、とにかく性格がみんなあまりにちがうので、いっしょにそろって何かをすることは苦手でした。それぞれのシカが好きなように気ままに1日をすごしていました。木のてっぺんのワシと問答しに行くものもいれば、リスのラタトスクを1日中からかっているものもいます。寝てばかりのシカもいるし、木の枝の間をかけまわって、体をきたえているものもいます。それぞれがわが道をゆく、という感じですね。
ダーイン、ドヴァリン、ドゥネイル、ドルラスロール、4頭そろって、することが1つだけありました。大きな木の枝から新芽が出ると、食べちゃうこと。もぐもぐ、もぐもぐ。新芽が出る頃には、一致団結して、どこから芽が出てくるかを見つけるのです。そして、4頭がいっせいに新芽を食べるから、葉っぱはなかなか成長しませんでした。大きな木はシカたちに食べられないように、木のてっぺんのほうとか、折れそうな細い枝の先っちょとか、シカが来そうにないところに芽を出すのですが、シカたちは必ず新芽を見つけて、どうにかこうにかして、食べに来るのです。
ほら、今日も、新芽の香りがただよっています。ダーインは鼻をくんくん、ドヴァリンは耳をぴくぴく、ドゥネイルは目をキョロキョロ、ドルラスロールは舌をペロペロ。大きな木、どこから新芽を出しているのかな? シカたちが目くばせしています。あっ、かけ出しましたよ!
2019.2.27