画家ルノワールを支えたオリーブ(Olive in France)
愛するオリーブの絵だけが飾られた
小さな部屋があるのをご存知ですか?
画家ルノワールが心の支えにしたオリーブがあると知り、どうしても会いたくなって旅立った南仏への旅でした。「樹木が人の魂を救う」ことを多くの人に伝え、書き続けたい私にとって、このオリーブは人間と樹木とが心通い合わせ、お互いに生きる力となる象徴の大樹です。
晩年の十二年を過ごした家が現在は美術館になっています。門を入ると、銀緑色の葉が風に揺れるオリーブ、すぐそばには目の覚めるようなイエローのミモザ、少し歩くとリンゴの木がありました。
そして、ルノワールが愛したオリーブの木は樹齢五百年。
大地にどっしりと根を張り、異形の姿を見せていました。日本でこれほど大きなオリーブを見たことはありませんでした。
歳をとって絵筆が持てなくなったルノワールは、小高い丘の上に立つ一本のオリーブをひと目見て気に入り、この地に移り住みました。そして、彼はリウマチで痛む右手に絵筆を紐でぐるぐると巻きつけ、車椅子で絵を描き続けました。毎日、毎日、亡くなる日まで......。
二階に上がると、オリーブの絵だけが飾られた小さな部屋があります。デッサンもあれば水彩画もあり、細密な鉛筆画、油絵もありました。何よりも感動したのは、窓から庭を覗くと、ちょうど絵と同じ風景が広がっていたことです。オリーブが立つ場所も、風が吹きぬける通りも、空の広がりも......。一瞬、この窓辺にルノワールが座って絵を書いているような、私は画家のそばに立っているような錯覚に陥ったほどです。
西欧では古来、オリーブは"再生の木"として、神聖視されています。絵を描き続けたいルノワールの願いにこたえ、オリーブは彼の心を支え、生きる勇気を与え続けたのでしょう。オリーブは今もなお、丘の上に立っています。
★この木と出会うには
Musée Renoir(ルノワール美術館)
06800 CAGNES-SUR-MER (FRANCE)
南仏ニース駅から約15分のカーニュ・シュル・メール駅下車、徒歩約20分。ルノワール美術館の庭園内
(2005年現在)